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No.251(2025/12/26):【医療法人会計⑩】医業収益・収益認識と税効果、明文の定めがない論点――監査対応の総まとめ

2025年12月26日
読了時間: 7分


こんにちは


大門綜合会計事務所スタッフです。



毎週金曜日、会計・財務、税務、監査、内部統制関連の基礎・Tips等をお伝えしています。

(このコラムは大門綜合会計事務所スタッフによるメールマガジンの転載となります。

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本シリーズ「病院会計準則から医療法人会計基準へ」(全10回)の第10回です。今回は、医業収益・収益認識と税効果、明文の定めがない論点――監査対応の総まとめについてお伝えします。



最終回となる今回は、医業収益の認識、税効果会計、そして運用指針に明文の定めがない論点の考え方を整理し、監査対応の総まとめをお伝えします。


はじめに税効果会計です。運用指針では、税効果会計は原則的に適用することとされています。ただし、一時差異等の金額に重要性がない場合には、重要性の原則の適用により、繰延税金資産または繰延税金負債を計上しないことができます。繰延税金資産および繰延税金負債に重要性がある場合には、主な発生原因別内訳を注記することが求められます。社会医療法人など課税関係が異なる法人もありますので、自法人の課税上の位置づけを踏まえた検討が必要です。


さて、ここからが本題です。医療法人の損益の中核をなすのは医業収益ですが、実は医療法人会計基準および運用指針には、収益をいつ、いくらで認識するかという定めが置かれていません。運用指針を通読しても、収益の認識基準に関する記載は見当たらず、「事業収益」という語も、監査対象となる法人の判定基準(事業収益70億円以上など)や、本来業務・附帯業務・収益業務という事業損益の区分の文脈で用いられているにとどまります。


そこで、企業会計の「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)が医療法人にも適用されるのか、という疑問が生じます。結論から申しますと、同基準が医療法人に直接強制適用されることはありません。その理由を、少し丁寧にご説明します。


第一に、企業会計基準委員会が公表する企業会計基準は、それ自体が法令ではありません。会計基準に従うことが義務づけられるのは、法令がそれを要求している場合です。つまり、どの法令の適用を受ける法人なのかによって、従うべき会計のルールが決まります。


第二に、企業会計基準が強制適用される経路は、大きく二つです。一つは金融商品取引法の経路で、有価証券報告書を提出する会社などが、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則を通じて、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うこととされています。もう一つは会社法の経路で、会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとされ、収益認識に関する会計基準は、会社法上の会計監査人設置会社、すなわち大会社等およびその連結子会社等に強制適用されています。逆にいえば、会計監査人を設置しない中小企業には強制適用されていません。


第三に、医療法人はこのいずれの経路にも乗りません。医療法人は医療法に基づいて設立される法人であり、会社法上の会社ではありませんので、会社法および会社計算規則の適用を受けません。また、有価証券報告書の提出義務を負う法人でもないのが通常です。医療法第51条第2項の医療法人が従うべきものとして法令が指定しているのは、医療法人会計基準、すなわち厚生労働省令第95号と、その運用指針です。したがって、収益認識に関する会計基準が医療法人に及ぶ法的な経路が存在しない、というのが直接強制適用されない理由です。


もっとも、これは「収益認識の考え方を無視してよい」という意味ではありません。運用指針は、会計基準および運用指針は法人全体に係る部分のみを規定したものであるとしたうえで、明文化されていない部分については一般に公正妥当と認められる会計の基準を含むものを考慮した総合的な解釈の結果として、各々の医療法人において、経理規程を作成する等により具体的な処理方法を決定しなければならない、という枠組みを示しています。収益認識に関する会計基準は、この「一般に公正妥当と認められる会計の基準」の一つとして参照されうる位置づけにあります。


では実務ではどう考えるか。社会保険診療報酬は、健康保険法等の法令に基づく公定価格による給付であり、個別の顧客と価格を交渉して契約を結ぶ取引とは性格が異なります。そのため、顧客との契約の識別から始まる五つのステップの枠組みを、そのまま当てはめる必然性は高くありません。実務上は、診療という役務の提供が完了した時点、すなわち診療を行った月に医業収益を計上する処理が一般的です。むしろ重要になるのは、請求額がそのまま入金されるとは限らないという点です。審査支払機関による査定減や返戻が生じますので、期末の未収金について、過去の査定率等を踏まえた合理的な見積りを行い、必要に応じて前回お伝えした貸倒引当金の検討につなげることになります。


一方で、自由診療、健康診断、人間ドック、受託検査、施設の利用に係る収益など、相手方との契約に基づく取引については、収益認識の考え方が参考になる場面があります。たとえば、複数回の検査をまとめたコースを前受けした場合に、いつ収益に振り替えるのか。こうした論点は、方針を定めて継続的に適用し、重要な会計方針として明示しておくことが求められます。


例を挙げます。ある法人が、当月の診療分として1億円を請求したものの、過去の実績から1パーセント程度の査定減が見込まれるとします(数値は説明のための仮のものです)。この見込みを収益や未収金の評価にどう反映させるか、その根拠資料は残されているか。監査ではこうした点が確認されます。方針が定まっていれば説明は容易ですが、定まっていなければ毎期の説明に苦労することになります。


同じことは、他の明文のない論点にも当てはまります。資産除去債務、固定資産の減損、控除対象外消費税といった論点についても、運用指針に明文の定めはありません。たとえば、賃借している建物にクリニックを開設し、退去時に原状回復義務を負っている場合、資産除去債務として負債を計上するのかしないのか。判断の根拠は何か。監査では、方針が定められているか、その方針が合理的で継続的に適用されているかが問われます。方針が定まらないまま決算を迎えることが、最も避けたい状態です。


このほか、事業損益を本来業務・附帯業務・収益業務に区分して損益計算書に記載すること、収益業務に係る会計を区分して特別の会計として経理すること、関係事業者との取引について定められた事項を関係事業者ごとに注記すること、継続事業の前提に関する注記を検討することなど、医療法人特有の開示も押さえておく必要があります。


全10回にわたり、病院会計準則から医療法人会計基準への移行と、その際の監査のポイントを見てまいりました。移行は、勘定科目を組み替えれば終わるものではなく、医業収益の認識、引当金、固定資産とリース、棚卸資産と有価証券、純資産と補助金、税効果、そして明文のない論点まで、方針を一つずつ定めて文書化していく作業です。早く着手した法人ほど、初年度の監査を落ち着いて迎えられます。


大門綜合会計事務所は、医療法人の会計監査をはじめ、医療法人会計基準への移行支援、経理規程や会計方針の整備、行政への届出書類のご相談まで、一貫して対応しています。自法人が監査の対象になるのか、何から手を付ければよいのか――そうしたご相談から承ります。



医療法人会計基準への移行、経理規程・会計方針の整備、そして初めての会計監査まで、大門綜合会計事務所が一貫してご支援します。御法人の状況に合わせた進め方を、初回のご相談で具体的にお伝えします。お問い合わせ・初回のご相談はこちらから承っています。



それでは、今日はこの辺で。

良い週末をお過ごしください。

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