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No.278(2026/08/21):【LPS公正価値⑤】【実務】非上場株式の評価①――直近取引価格法とキャリブレーション

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大門綜合会計事務所スタッフです。



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本シリーズ「LPS投資資産の公正価値評価」(全10回)の第5回です。今回は、【実務】非上場株式の評価①――直近取引価格法とキャリブレーションについてお伝えします。



非上場株式の評価において、実務上よく使われる出発点のひとつが「直近取引価格法」です。これは、投資先企業が直近に行ったファイナンス(資金調達ラウンド)で成立した取引価格を基礎として、評価時点における公正価値を見積もる手法です。IPEVガイドライン(International Private Equity and Venture Capital Valuation Guidelines)でも、直近の第三者間取引価格は公正価値の有力な参照点として位置づけられており、特に資金調達ラウンドの直後は、市場参加者間で合意された価格として一定の説得力を持ちます。


ただし、直近の取引価格をそのまま使い続けてよいわけではありません。資金調達時点から時間が経つにつれ、企業の状況は変化します。業績の進捗、主要マイルストーンの達成・未達、市場環境の変化、競合の動向、次のラウンドの有無など、さまざまな事象が企業価値に影響を与えます。そこで重要になるのが「キャリブレーション」という考え方です。


キャリブレーションとは、取引が成立した時点において評価技法(たとえばDCF法やマーケット・アプローチ)のパラメータを実際の取引価格と整合するように較正し、その後の評価時点では、市場環境や企業固有の状況の変化のみを反映してパラメータを更新していく手法です。つまり、取引価格を「錨(アンカー)」として評価技法を固定したうえで、その後の価値変動を定量的に捉えようとするアプローチです。


具体的な場面で考えてみましょう。説明のための仮の例として、ある投資先スタートアップが6か月前のシリーズBラウンドで1株あたり2,000円の価格で資金調達を完了したとします。この時点でキャリブレーションを行い、マーケット・アプローチ(同業種類似会社の売上高倍率)が取引価格と整合するようにパラメータを設定しました。その後の期末評価時点において業績を確認したところ、売上高は計画を15%上回っていた一方、同業種類似会社の市場評価倍率は全体的に低下していたとします。この場合、業績の上振れというプラス材料と、マーケット環境の悪化というマイナス材料の両方を反映してパラメータを更新し、改めて評価額を算定します。単純に1株2,000円を据え置くのではなく、変化した状況を織り込んだ金額を報告するわけです。


直近取引価格法をどこまで使えるか、という点はよく問われます。IPEVガイドラインでは、取引後に価値変動を示す重大な事象がなければ直近取引価格が公正価値の合理的な見積もりとなりうるとされていますが、時間の経過とともにその信頼性は低下していきます。実務上は、取引から相当の期間が経過した場合には他の評価技法との比較を行うことが多く、また取引後に重大なマイルストーンの未達や業績の大幅な乖離があった場合には、期間にかかわらず評価の見直しが必要です。この判断は投資先の状況に応じて個別に行うことになります。


なお、資金調達ラウンドの取引価格であっても、必ず第三者間取引と同等に扱えるわけではない点にも注意が必要です。既存投資家が大部分を引き受けた場合や、清算優先権・参加権など特別な権利が付与された優先株式での取引の場合、普通株式の公正価値とは乖離することがあります。こうした複雑な資本構造への対応については、次回(第6回)で詳しく解説します。



自社ファンドの投資資産の公正価値評価(非上場株式の評価、優先株の配分、評価の文書化、監査対応)にご不安があれば、ファンド会計・バリュエーションに精通した公認会計士にご相談いただくのが近道です。大門綜合会計事務所の会計監査・コンサルティングのご相談はこちらから承っています。



それでは、今日はこの辺で。

良い週末をお過ごしください。

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