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No.279(2026/08/28):【LPS公正価値⑥】【実務】非上場株式の評価②――マーケットアプローチ(類似会社比較法)

8月28日
読了時間: 4分

こんにちは


大門綜合会計事務所スタッフです。



毎週金曜日、会計・財務、税務、監査、内部統制関連の基礎・Tips等をお伝えしています。

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本シリーズ「LPS投資資産の公正価値評価」(全10回)の第6回です。今回は、【実務】非上場株式の評価②――マーケットアプローチ(類似会社比較法)についてお伝えします。



前回はインカムアプローチ(DCF法)をとり上げ、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を求める方法を解説しました。今回は第6回として、マーケットアプローチのなかでも実務で最も広く用いられる類似会社比較法(Guideline Public Company Method)を取り上げます。


マーケットアプローチとは、上場市場で観察できる類似企業の株価や取引価格を基準に、対象会社の価値を推定する手法です。IPEVガイドラインでも重要な評価アプローチの一つとして位置づけられており、客観的な市場データを根拠にできる点が大きな強みです。


類似会社比較法の骨格は、類似上場会社のマルチプル(倍率)を対象会社の財務指標に乗じて企業価値(EV:Enterprise Value)を算出することです。代表的なマルチプルとして、EV/EBITDA(利払い・税金・償却前利益に対する企業価値倍率)、EV/売上高、PER(株価収益率)などがあります。成熟した収益体質の企業にはEV/EBITDAが、急成長中でまだ赤字のスタートアップにはEV/売上高が選ばれることが多く、対象会社の事業フェーズや業種に応じて最適なマルチプルを選択することが出発点になります。


評価の精度を大きく左右するのが、類似会社の選定です。事業内容・収益モデル・対象市場・地理的展開などが対象会社と近い上場企業を、通常10社前後選びます。選定後は外れ値を除いた中央値や四分位範囲を参照します。「なぜこの会社を選んだか」という選定基準を文書化しておくことは、後の監査対応や投資家への説明においても重要な実務上のポイントです。


マルチプルを適用するだけでは評価は完結しません。類似会社と対象会社の差異を調整することが不可欠です。主な調整要素は次の三点です。まず規模の差で、小規模な非上場会社は大企業と比べて一般に低い倍率が適用される傾向があります。次に成長性・収益性の差で、類似会社より高成長が見込まれる場合は倍率を引き上げ、低い場合は引き下げます。そして流動性ディスカウント(DLOM:Discount for Lack of Marketability)です。上場株式は即時売却できますが、非上場株式にはその流動性がなく、算定した価値から一定の割引を施すことが一般的です。DLOMの水準は売却制限の内容や業種・規模などを踏まえ専門的に判断されます。


算出されたEVから株式価値を求めるには、純有利子負債(有利子負債から現金・現金同等物を差し引いた額)を控除します。そこにファンドの持分比率を乗じることで、投資の公正価値の目安が得られます。


ここで仮の数値例を示します。月次定額課金型のSaaS企業A社(直近12か月売上高10億円)を評価する場面です。国内外の類似上場SaaS企業10社のEV/売上高マルチプルの中央値が8.0倍だった場合、EVの暫定値は80億円(10億円×8.0)となります。しかしA社は類似会社より小規模で、かつ非上場ゆえの流動性も低いため、規模・流動性ディスカウントを合計15%適用すると調整後EVは68億円です。ここから純有利子負債9億円(借入金12億円-現金3億円)を控除すれば株式価値は59億円、ファンドが20%の持分を保有していれば公正価値の概算は約11.8億円となります。あくまで説明のための仮の数値例ですが、計算の流れはおおむねこのようになります。実際の評価では財務予測の精度検証や、類似会社一社ずつの詳細分析と根拠の文書化が伴います。


類似会社比較法は市場の実勢を直接反映できる反面、マルチプルの選択と調整の妥当性が評価者の専門的判断に大きく依存します。また評価時点の市場環境(強気・弱気)がマルチプル水準そのものに影響するため、マクロの市場動向も踏まえた慎重な解釈が必要です。DCF法と組み合わせて相互に検証することで、評価の信頼性はいっそう高まります。


次回(第7回)は、複数の評価手法の結果をどのように組み合わせ、最終的な公正価値をどう決定するか――評価手法間のコロボレーション(整合性確認)と、評価委員会やガバナンス体制の実務を取り上げます。評価プロセス全体を俯瞰する視点を一緒に養っていきましょう。



自社ファンドの投資資産の公正価値評価(非上場株式の評価、優先株の配分、評価の文書化、監査対応)にご不安があれば、ファンド会計・バリュエーションに精通した公認会計士にご相談いただくのが近道です。大門綜合会計事務所の会計監査・コンサルティングのご相談はこちらから承っています。



それでは、今日はこの辺で。

良い週末をお過ごしください。

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