No.215(2025/12/12): 所得税の追徴税額が過去最高を更新
- DAIMON STAFF
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第215回の今回は日本経済新聞の記事(2025年12月11日)より、所得税の追徴税額が過去最高を更新したニュースを取り上げます。
所得税の追徴税額1431億円で過去最多 国税庁、AI活用調査が貢献
日本経済新聞 電子版 2025/12/11
国税庁が発表した内容によれば、2024事務年度(2023年7月から2024年6月まで)の所得税に関する税務調査で、追徴税額は1431億円に達し、統計の形が現行になった2009年度以降で最も高い水準になりました。背景には、人工知能を活用した調査対象者の選定やデジタル証拠の分析が挙げられています。今回はこのニュースを題材に、税務行政がどのように変化しているのか、企業や経営者がどのように対応すべきかを考察します。
まず、この記録的な数字が示すのは、税務行政の執行能力が年々高まっていることです。この1年間に申告漏れを指摘された件数は36万8727件、申告漏れ所得の総額は9317億円に上りました。追徴税額1431億円は前年より33億円増えており、3年連続で過去最高を更新しました。この増加は単に申告漏れが増えたことを意味するものではなく、AIやデータ分析技術を用いてリスクの高い納税者を効率的に抽出し、深度ある調査を行った成果とされています。
特に注目すべきは、国税庁が調査対象の選定に人工知能を本格的に活用し始めた点です。膨大な申告データや過去の調査結果、第三者から取得した資料をAIモデルに投入し、申告漏れの可能性が高い納税者を予測することで、職員の経験や勘に頼っていた従来のやり方から大きく進化しました。この仕組みの導入により、限られた人員でも高額な申告漏れが見込まれる案件に集中することができ、調査の効率が飛躍的に向上しています。また、税務調査を受ける側にとっても、調査理由が明確になることで透明性が高まり、税務当局と納税者の双方にメリットがあると言えます。
業種別のデータを見ると、1件当たりの申告漏れ所得金額が特に大きかったのはキャバクラ業界で平均4164万円、眼科医で3894万円だったと報告されています。これらの業種では現金取引が多く売上管理が複雑になりがちであり、正確な記帳や内部統制が十分でない場合には申告漏れが発生しやすくなります。このことから、現金商売や高額な自由診療を行う医療機関などは、社内の経理フローを定期的に見直し、第三者のチェックを取り入れるなどして透明性を高めることが重要です。規模が小さい店舗でも、デジタルツールを活用した記帳や売上管理を徹底することでリスクを低減できます。
今回の報道では具体的な不正事案も紹介されています。たとえば、高級腕時計の輸出販売を装って安価な腕時計を購入し、架空の仕入れや輸出免税売上を計上することで還付を不正に受けたケース、トレーディングカードの販売収入を申告から除外して消費税を免れたケースなどが告発されました。これらの事案では、取引メールや電子決済記録などの電子データが証拠として活用されました。AIやデジタルフォレンジックの技術が進歩する中では、不正な取引を隠すことはますます難しくなっています。適正な税務処理を行うことが企業の信頼維持に直結する時代になっていると言えるでしょう。
もう一つの特徴は、高額所得者や資産家など、いわゆる富裕層に対する調査が重点的に行われている点です。国税庁は、大口の有価証券や不動産の保有者、継続的に所得が高い納税者を富裕層と定義し、海外投資や複雑な資産運用を含む取引を細かく点検しています。資産運用が多様化する中で、海外口座や暗号資産を利用するなど税務の目が届きにくいスキームも増えていますが、国税庁は租税条約に基づく情報交換やAI分析を駆使して追跡を強化しています。富裕層にとっては、税務リスクを低減するために海外資産の管理方法や申告内容の正確性を再確認することが不可欠です。
このような動きは、企業や事業主にどのような影響を与えるのでしょうか。まず、帳簿や証憑のデジタル化は不可避の流れと言えます。POSシステムや会計ソフトを活用して日々の取引データを整え、税務調査で提出を求められても即座に応じられるようにしておくことが求められます。個人事業主であっても、現金出納帳や領収書を紙のまま保管する時代は終わりつつあります。電子帳簿保存法への対応を進め、バックアップやアクセス権限の設定など内部統制の整備も忘れてはなりません。きちんとした体制を築いておけば、調査対象になっても短時間で説明でき、不安を抱えずに済みます。
次に、海外取引や新しいビジネスモデルへの対応が重要です。越境ECやフリーランス、シェアリングエコノミーなどは、従来の税制が想定していなかった取引が多く含まれています。海外にサーバーを置くサービスから受け取る報酬をどの国で課税されるのか、暗号資産の取引損益をどう計算するのかなど、専門的な判断が必要な案件が増えています。国税庁もこうした新分野を注視しており、AIによるリスク分析の対象に組み込んでいると考えられます。経営者や会計担当者は、専門家と連携して国際税務やデジタル取引のルールを常にアップデートすることが求められます。
ここで、少しマーケティングの話に触れてみましょう。当事務所が推奨する感情マーケティングは、数字の裏にあるストーリーを伝えることで顧客の共感を得る手法です。税務の世界でも、単にコンプライアンスを守るというだけでなく、企業がどのような理念を持ち、社会にどんな価値を提供しているのかを発信することが大切です。映画やスポーツのスポンサー契約を例にとると、スポンサー企業が地域社会と共生し、利益の一部を教育や文化に還元しているというメッセージが消費者の信頼を高めます。同じように、税務の適正な履行は企業の社会的責任の一環であり、その姿勢を社外に伝えることでブランド価値が向上します。感情に訴えるメッセージを交えることで、堅い税務の話題も読みやすくなり、読者が自らの行動を振り返るきっかけとなるでしょう。
最後に追徴税額が過去最高になったのは、申告漏れや無申告が横行しているからではなく、AIの導入によって限られた調査資源を効果的に配分し、高リスク案件を見逃さなくなったことが大きな要因です。この流れは今後も続き、法人税や消費税の分野にも広がっていくと予想されます。企業や納税者としては、記帳の徹底やデジタル化、海外取引の適正な処理に取り組むと同時に、税務リスクを単なるコストではなくレピュテーションリスクと捉え、経営戦略の一部として考える視点が必要です。適切な納税は社会からの信頼を築き、長期的には企業の成長にも寄与します。読者の皆様には、この機会に自社の税務体制を振り返り、強化すべきポイントをチェックしていただければと思います。
それでは、今日はこの辺で。
良い週末をお過ごしください。



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