No.214(2025/11/14): 税制改正と制度変更の最新動向
- DAIMON STAFF
- 11月7日
- 読了時間: 8分
更新日:11 時間前

こんにちは
大門綜合会計事務所スタッフです。
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第214回の今回は税務通信3873号(2025年10月27日)より税制改正や制度変更の最新動向をまとめてお届けします。
R7(令和7)税制改正 – オペレーティング・リースの新定義と短期前払費用との関係
2025年税制改正では、従来税務上で「ファイナンス・リース」と区別されてきたオペレーティング・リースの定義が整理されました。改正後は「資産の貸借のうちリース取引に該当しないもの」と定義され、使用料は契約に基づき債務が確定した時点で損金算入できる旨が明確にされています。会計基準ではリース取引を資産・負債として認識する方向に移行しましたが、税法上ではファイナンス・リース(所有権移転外リース)とオペレーティング・リースの区分が維持され、新設された法人税法第53条によりオペレーティング・リース料のうち、債務が確定した部分は損金算入可能となりました。短期前払費用の特例(支払から1年以内のサービスに係る前払費用を全額費用計上できる制度)との適用関係も注目され、長期契約を短期で支払う場合には会計・税務上の調整が必要になることが予想されます。
R8(令和8)扶養控除申告書の変更 – 「特定親族特別控除」の創設と記載対象者の見直し
2025年度改正では、従来の扶養控除の中に「特定親族特別控除」が新設され、19歳以上23歳未満の扶養親族に対して追加的な控除が受けられるようになりました。このため、2026年分(令和8年分)の扶養控除申告書ではB欄の記載対象者が「源泉控除対象親族」に変更されます。これまで扶養親族全員を記載していた欄ですが、今後は年末調整で源泉徴収対象となる親族だけを記載しなければならず、控除額の計算方法や対象者の確認が必要になります。制度改正の背景には、働き方や教育費の変化に対応しつつ、扶養控除制度の公平性を確保する狙いがあります。
国税庁のオンライン税務調査ツールへの移行
国税庁は10月に国税局長会議を開き、税務調査業務を「Government Solution Service(GSS)」に全面的に移行する方針を確認しました。企業や個人は税務調査に先立ち、オンラインツールにメールアドレス等を登録してやり取りを行うことが求められます。別の報道では,全税目の税務調査をオンラインで実施するために納税者側のメールアドレス登録が必要であるとされています。紙や対面中心の手続からデジタル化への転換は、税務行政の効率化と証跡の確保を目的としていますが、情報セキュリティやITリテラシーへの配慮も欠かせません。
会計検査院が株式報酬(ストックオプション)の申告漏れを指摘
10月20日に会計検査院が発表した報告書では、ストックオプションの譲渡益について申告漏れや課税漏れが多数見つかったことを指摘し、国税庁に対して改善を要請しました。国税庁はこの報告を受け、証券会社や上場企業から提出される名簿をもとに各税務署へ情報提供を行い、的確な調査を進める方針です。株式報酬は上場企業の役職員に広く導入されており、付与時・権利行使時・譲渡時それぞれで課税関係が異なるため、税理士としては顧客に対し適切なタイミングでの申告と源泉徴収の指導が重要になります。
国税庁調査部長会議 – データ活用とガバナンス強化
国税局の調査部門の長による全国会議では、調査業務の使命と役割に基づく運営を推進し、AIやデータ分析を活用した効率的な調査手法を導入する方針が示されました。また、納税者のガバナンスを強化し、自主的な税務コンプライアンスを促進する仕組み作りも重要課題として挙げられました。今後は、企業内の内部統制と税務リスク管理が一層求められ、税理士や会計士はデータ分析の知識やITツールへの対応力を身につける必要があります。
新フリーランス法と改正下請法 – 優越的地位の濫用防止と適正な価格転嫁
2023年に成立し2024年11月1日に施行された「フリーランス法」は、フリーランスや従業員を持たない超小規模企業(特定受託事業者)と発注者との取引を対象に、下請法と類似の規制を設けています。発注者(委託者)には以下の義務があります。
・業務内容と報酬額などを明示する義務:委託時には契約内容、報酬額、支払期日等を文書又は電磁的方法で明示しなければならない。
・支払期日設定の義務:納品又はサービス提供の日から60日以内に支払日を定め、その期日までに支払う必要があります。
・禁止行為:正当な理由なく成果物の受領拒否や報酬の減額、返品を行うこと、著しく低い報酬設定や不要な商品の購入強制、無償の追加作業要求などを禁止しています。
・労働法に準じた配慮義務:長期契約(6か月超)の場合、妊娠や育児・介護等に配慮する義務、ハラスメント防止措置、契約終了時の30日前事前通知などが求められます。
発注者が上記に違反した場合、フリーランスはJFTCや厚労省など関係機関に申告でき、違反者には50万円以下の罰金や勧告が行われます。フリーランスとの取引が拡大する中、企業は文書作成・支払管理の体制を整備し,ハラスメント対策やコンプライアンス教育を行うことが必要です。
改正下請法(中小企業等協働事業者に対する支払遅延防止法の改正)
2025年5月に概要が公表された改正下請法は、中小事業者への適正な価格転嫁とキャッシュフロー改善を目的とし、2026年1月1日に施行予定です。主な改正点は以下の通りです。
・適正な価格交渉の義務化:親事業者が小規模企業に対し、一方的に価格を決定することを禁止し、交渉拒否や必要な情報提供をしない行為を禁止します。
・手形等での支払禁止:支払手段として約束手形や手形サイトが長期となる電子記録債権を利用することを禁止し、60日以内の現金決済を求めます。
・物流委託の対象化:従来「再委託」に限定されていた物流委託に、元請けが物流企業に直接委託するケースも規制対象に追加し、荷待ち・積込みの無償強要を禁止します。
・対象企業の判定基準の拡張:資本金基準に加え、従業員数基準(製造業300人超、サービス業100人超)が導入され、大企業が資本額を操作して規制逃れをすることを防ぎます。
・報告者保護と行政機関への権限拡大:JFTCや中小企業庁以外の関係省庁にも勧告権・指導権が与えられ、報復措置の禁止範囲が拡大されます。
改正下請法とフリーランス法は「優越的地位の濫用」を防止し、健全なサプライチェーン構築を目指すものであり、企業のコンプライアンス担当者や税理士は制度の違いと適用範囲を理解し、取引契約書や支払ルールを整備する必要があります。
電子インボイス制度(Qualified Invoice System)の活用
2023年10月1日から消費税の仕入税額控除に関する「適格請求書保存方式」(インボイス制度)が始まりました。適格請求書は紙でも電子でも構いませんが、消費税の仕入税額控除を受けるためには登録事業者が発行する適格請求書の保存が必要となり、多くの企業がペポル(Peppol)ネットワークのJP PINT形式による電子インボイス発行を採用しています。民間調査によれば、適格請求書制度はすべての企業に電子インボイスを義務付けているわけではないものの、入力税額控除の適用を受けるには適格請求書の保存が必要であり、その発行を電子化することが強く推奨されています。
電子インボイス導入のメリットとして、紙の保管コスト削減、請求・支払処理の迅速化、記載誤りの削減、環境負荷の低減などが挙げられます。中小企業でも利用可能なサービスが多数提供されているため、今後は電子化が標準となるでしょう。
グループ通算制度の承認申請と開始前の取下げ
2022年4月1日以後開始事業年度から、従来の連結納税制度に代わり「グループ通算制度」が導入されました。100%グループに属する企業は、この制度によりグループ内で発生した欠損金をプロラタ配分で相殺した後、各社が個別に法人税申告を行います。制度利用の前提として、グループ親会社および100%子会社全てが事業年度開始の3か月前までに承認申請書を提出する必要があります。申請後、制度開始前であれば取下書を提出して取り下げることも可能であり、連結納税制度の時より柔軟にグループ税務を計画できます。開始後はグループ内での期首資産の時価評価や繰越欠損金の扱いなど、独自の調整が必要になるため、導入前の検討が欠かせません。
年末調整ソフトの活用とセルフメディケーション税制
国税庁の年末調整ソフトウェアは2025年度版から基礎控除額の引き上げに対応しましたが、2025年12月1日以降も同年分の年末調整に引き続き利用できると案内されています。給与所得者が各種控除申告書を電子化する際にも利用できるため、法人の給与担当者は早めに操作方法を把握し、従業員への案内を進めると良いでしょう。
また、セルフメディケーション税制については、厚生労働省が対象医薬品の拡充を求めており、対象薬品リストは国税庁ウェブサイトで確認できます。自己治療に係る医療費控除の特例として、一定のOTC医薬品購入額から12,000円を超える部分が所得控除の対象となるため、対象品目の確認とレシートの保管が重要です。
まとめ
今号では、オペレーティング・リースの新定義や扶養控除申告書の変更、国税庁のオンライン調査ツール導入、ストックオプション申告漏れ問題、フリーランス法と改正下請法、電子インボイス制度、グループ通算制度、年末調整ソフトやセルフメディケーション税制など、幅広いテーマを取り上げました。
それでは、今日はこの辺で。
良い週末をお過ごしください。



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