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No.205(2025/5/30):のれんの定期償却不要化に向けた動きとその影響



こんにちは


大門綜合会計事務所スタッフです。


毎週金曜日、会計・財務、税務、監査、内部統制関連の基礎・Tips等をお伝えしています。

(このコラムは大門綜合会計事務所スタッフによるメールマガジンの転載となります。

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第205回の今回は、「のれんの定期償却不要化

に向けた動きとその影響」についてご紹介します。



2025年5月、日本の会計制度に関する重要な

転換点となり得る報道がありました。政府の

規制改革推進会議が、企業買収時に計上され

る「のれん」について、定期償却を不要とす

る制度変更を提案する方針を示したのです。

この変更は、スタートアップM&Aを促進し、

経済の新陳代謝を後押しする狙いがあります。


「のれん」とは何か

まず、「のれん」とは、企業がM&Aで支払う

買収対価のうち、被買収企業の純資産額を上

回る部分を指します。これはブランド力や技

術、人材などの無形資産の価値を反映してい

ます。


現在の日本基準では、こののれんを最大20年

以内に定期償却しなければならず、販管費と

して毎期計上されるため、営業利益が目減り

します。結果として、企業はM&A後に利益が

圧迫されやすく、会計上の負担が重くなりま

す。


<国際基準との差と競争上の不利>

一方、IFRS(国際会計基準)や米国会計基準

では、のれんは償却せず、定期的に減損テス

トを行い、価値が下がったと判断された場合

にのみ損失計上します。これにより、買収後

も利益計上を維持しやすくなり、M&Aに積極

的な企業文化を後押ししています。


そのため、日本企業はM&A交渉で国際企業に

比して不利な立場に置かれがちであり、特に

スタートアップの買収ではこの制度がネック

となっていると指摘されてきました。


<会計制度変更の狙い>

規制改革会議は、のれんの会計処理について

「非償却」または「選択制(償却か非償却を

選択)」とするよう、企業会計基準委員会

(ASBJ)に要請する方針です。これにより、

スタートアップのM&Aが活発化し、IPO以外の

「出口戦略」としての選択肢が拡大すること

が期待されます。


また、IFRS導入には高額な監査費用が伴うた

め、特に中小企業やスタートアップにとって

は大きな負担でした。今回の制度変更により、

IFRSを採用せずとも類似の処理が可能となる

点でもメリットがあります。


<投資家保護とのバランス>

一方で、のれんを定期償却しない場合、損失

が発生した際にそのタイミングで一括計上す

る必要があるため、企業の裁量が入りやすく、

投資家にとって業績の見通しが不透明になる

リスクもあります。これにどう対処するかが、

今後の制度設計における重要なポイントです。


<今後の展望>

のれんの定期償却は、1990年代以降の会計改

革の中で残された「最後の壁」とも言える項

目です。今回の動きが現実となれば、国際基

準との整合性が一層高まり、日本企業の国際

競争力や投資家からの評価にも好影響が期待

されます。


特に、政府が掲げる「スタートアップ投資10

兆円」政策との整合性が取れており、会計制

度が経済政策と連携し、成長戦略の一環とし

て機能することが見込まれます。


それでは、今日はこの辺で。

良い週末をお過ごしください。

 
 
 

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