No.205(2025/5/30):のれんの定期償却不要化に向けた動きとその影響
- DAIMON STAFF
- 5月23日
- 読了時間: 3分

こんにちは
大門綜合会計事務所スタッフです。
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第205回の今回は、「のれんの定期償却不要化
に向けた動きとその影響」についてご紹介します。
2025年5月、日本の会計制度に関する重要な
転換点となり得る報道がありました。政府の
規制改革推進会議が、企業買収時に計上され
る「のれん」について、定期償却を不要とす
る制度変更を提案する方針を示したのです。
この変更は、スタートアップM&Aを促進し、
経済の新陳代謝を後押しする狙いがあります。
「のれん」とは何か
まず、「のれん」とは、企業がM&Aで支払う
買収対価のうち、被買収企業の純資産額を上
回る部分を指します。これはブランド力や技
術、人材などの無形資産の価値を反映してい
ます。
現在の日本基準では、こののれんを最大20年
以内に定期償却しなければならず、販管費と
して毎期計上されるため、営業利益が目減り
します。結果として、企業はM&A後に利益が
圧迫されやすく、会計上の負担が重くなりま
す。
<国際基準との差と競争上の不利>
一方、IFRS(国際会計基準)や米国会計基準
では、のれんは償却せず、定期的に減損テス
トを行い、価値が下がったと判断された場合
にのみ損失計上します。これにより、買収後
も利益計上を維持しやすくなり、M&Aに積極
的な企業文化を後押ししています。
そのため、日本企業はM&A交渉で国際企業に
比して不利な立場に置かれがちであり、特に
スタートアップの買収ではこの制度がネック
となっていると指摘されてきました。
<会計制度変更の狙い>
規制改革会議は、のれんの会計処理について
「非償却」または「選択制(償却か非償却を
選択)」とするよう、企業会計基準委員会
(ASBJ)に要請する方針です。これにより、
スタートアップのM&Aが活発化し、IPO以外の
「出口戦略」としての選択肢が拡大すること
が期待されます。
また、IFRS導入には高額な監査費用が伴うた
め、特に中小企業やスタートアップにとって
は大きな負担でした。今回の制度変更により、
IFRSを採用せずとも類似の処理が可能となる
点でもメリットがあります。
<投資家保護とのバランス>
一方で、のれんを定期償却しない場合、損失
が発生した際にそのタイミングで一括計上す
る必要があるため、企業の裁量が入りやすく、
投資家にとって業績の見通しが不透明になる
リスクもあります。これにどう対処するかが、
今後の制度設計における重要なポイントです。
<今後の展望>
のれんの定期償却は、1990年代以降の会計改
革の中で残された「最後の壁」とも言える項
目です。今回の動きが現実となれば、国際基
準との整合性が一層高まり、日本企業の国際
競争力や投資家からの評価にも好影響が期待
されます。
特に、政府が掲げる「スタートアップ投資10
兆円」政策との整合性が取れており、会計制
度が経済政策と連携し、成長戦略の一環とし
て機能することが見込まれます。
それでは、今日はこの辺で。
良い週末をお過ごしください。
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